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9 暗殺者?

last update Last Updated: 2025-11-24 19:29:31

エドアルドは暗殺者なんだろうか。

その不安はあるけど、でも彼らは公爵で国王のために暗殺をしてきたんだろ?

なら俺たちに刃を向けるだろうか……

そんなことあるわけない。

俺は自分にそう言い聞かせて、昼休み、エドアルドと食堂へと向かう。

「エドアルドは今日は何食べるの?」

「昨日はパスタだったから、今日はパンかなって思ってる」

ほんとに軽くしか食べないんだな。

エドアルドは俺より少し背が高い。たぶん百八十センチ近くあるんじゃないだろうか。

俺はたぶん百七十四センチ位だ。

エドアルドは細身とかじゃないし……半袖から見える腕はほどよく筋肉がついている。

パンとかパスタばっかでよく生きていけるな……

俺は無理だから、今日はがっつりハンバーグ定食だ。

ふたりで並んで椅子に座り、食べ始める。

エドアルドはロールパンにハムやチーズが挟まれたものと、たまごごはさまれたやつ、それにベーコンレタスが挟まれたやつの三つのパンにスープを買ったようだ。

こうしてみるとけっこう量あるかも。

「エドアルドはなんで休学してたんだ?」

ナイフとフォークでハンバーグを切りながら俺は尋ねた。

「家の都合で。代々二十歳になると受け継ぐものがあってそれで休んで山奥にいた」

「……山奥? 山で何してたんだ?」

「勉強」

「何の」

その問いには沈黙しか返ってこなかった。

これは答えられない質問、てことなんだろうな……

しばらく黙ったあと、エドアルドが言った。

「……うちがどういう家系かは、知ってるだろう」

「えーと……毒殺を得意とする暗殺一家」

俺は手を止めてそう答え、横を見た。

エドアルドはベーコンレタスの挟まれたロールパンを持ったまま笑った。

「あはは、そこまでストレートに言われたのは始めてかも。普通、もう少し濁すのに」

「だ……だってにごしようがなくって……」

やべぇ……言われてみれば確かに暗殺とか毒とかもうちょいなにかこうふわっとした言い方あったかも。

わかんないけど。

あー、恥ずかしくて顔が熱い。

俺はハンバーグを口に放り込んだあと、ナイフとフォークを起き、水の入ったグラスを握り中身を口に流し込んだ。

「まあ、それは本当のことだし。今は暗殺なんてすることはないけど、次男だけがその技術を受け継ぐことになっていて」

次男だけが暗殺技術を受け継ぐ……?

辺りはざわめきに溢れているのに、俺とエドアルドの間には静けさが流れているような気がした。

「俺は次男だから、その技術を叔父から教わっていた。まあ、使うことなんてないはずだけどな」

「……暗殺の役割を担ってたのはまじなの?」

「それは事実だけど昔の……数百年は前の話だ。まだ王国が混沌としていた時代だし。今は平和だし暗殺なんてする機会ないよ」

「で、でも国王の……」

内心びくびくしながら、昨日メイド長から聞いた話を口にする。

すると、エドアルドはこちらを向いてああ、と呟き目を伏せた。

「陛下の妹君のことか。暗殺疑惑があるのは知ってるが、俺たちじゃない。セタリィ神王国て知ってるか?」

「え、いや……?」

答えながら俺は首を横に振る。

神王国……? なんだそれ。

「この国を追放された教祖がつくった国だよ。救世主が現れて国を救うとかなんとか言っている連中で、彼らは自分たちを追放したこの国を恨んでいる、という話がある」

「なんで追放なんて」

「税金は神の国に納めるべきだとか、神殿には神はいないだとか神殿の前で喧伝してトラブル起こしたり、人々は神の前で皆平等で王も貴族も商人も関係ないととき、終末論を唱えて人々の不安を煽り治安を乱したから」

……あー……すげーなそれ。なんて言うだっけ……カルト?

この世界、カルトとかあるのかよ、なにそれ怖い。

「で、国をつくったってすげーなそれ」

「山奥にあって最初は数十人しかいなかったらしいが、今じゃあ人口千人を越えているらしい」

千人って多いのか……?

この世界の人口の感覚がわかんないから俺は、

「へぇ」

しか言えなかった。

「その国って、できてから何年くらいなんだ?」

「二十年くらいだったともう。だから先王の時代だな、追放どうのは。だから俺も詳しくは知らないけど、親たちは知っていて話を聞くことがあるよ」

「国って事は、国交があったりするのか?」

「セタリィを国とは認めていないが、交易はしているな。そもそも近いし、山で採れる鉱石や植物の取引をしているはずだ」

追放したやつがつくった国だから、国としては認めてないけど商取引は認めてるのか。

人流を制限しようとしても難しいか……

町の周りを全て城壁で囲ってるわけじゃないもんな。

昔は戦争とか多かったから城壁で囲っていたらしいけど、今は戦争もめったになく、城壁の外にも町ができて人口が増えてるらしいから。

「じゃあ、その国のやつが国王一家を狙ってるとか……?」

「追放した教祖たちには恨まれているらしい。けれどもう二十年たつし、今さらどうこうするっていうのも考えにくいけれど」

二十年って長いよな……でもどうなんだろう。

「俺たちが王宮に引き取られたのも、暗殺者から守る為って言われたんだよな……」

ぼそり、と俺が呟くと、エドアルドは、

「やっぱりそうか」

と言った。

「不思議には思ったよ。小さな子供ならともかく、ルカは二十歳だろう? 働けるし、引き取らなくちゃいけない年齢でもない。なら何か事情があったのだろうとは思った」

この国じゃあ高校出たら働くのわりと普通だもんな。田舎ならなおさら。

実際俺は、高校出た後働いていていたんだから。

「だから俺、もしかしてお前が暗殺者なのかなってちょっと怖かったんだよね」

笑いながら言うと、エドアルドはゆっくりとこちらを見た。

う……怖い。なんか目が、怖いんだけど……

「まさか。もし俺が殺す気ならまずこんな風に近付かない。すぐにばれるだろう?」

それもそうだよな。

ってことは、カルファーニャ家が暗殺の一族だったことを利用して、噂を流しているやつがいるとか?

まさかそこまでやるかなぁ……

「お前がいなかったら、ミャーコを家に連れて帰る決心がつかなかったし」

エドアルドは恥ずかしげに呟く。

……ミャーコって名前つけたんだ、あの猫に。

「あはは、そうだよな。お前が俺を暗殺とかないよな。ねえ、今度猫見に行っていい?」

言いながら俺はずい、とエドアルドに顔を近づけた。

すると彼は驚きの顔をして、目を瞬かせる。

「え……あ、え?」

「ミャーコ。俺、また会いたい」

あの猫可愛かったし。

王宮じゃあペット飼いたいなんて言えないからな……馬とか牛、羊や鶏がいるけどペットとは違うし。

それに俺は、エドアルドの事をもっと知りたい。

どうやってマリアの攻略対象になるんだろう……

やっぱり俺がきっかけなのかな。

そんなことを考えていると、エドアルドは戸惑った顔をした後さっと、正面を向き言った。

「……まだ、怪我治っていないから、治った後なら……」

と、小さく呟く。

あぁ、そうか。足、怪我してるんだもんなあの子。

「それっからでいいよ。約束だからな」

すると、エドアルドはまた驚いた顔をして俺を見た後、正面に視線を戻して小さく頷いた。

「わかった」

「やったー、楽しみだなー」

初めて人の家に遊びに行ける。

そのことに俺の心は弾んだ。

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